<< main  >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

好き好き大好き作戦

 


 我の名はキルラ−キルレ−キロル。
 月在らずの夜に召喚を受けた、ヴァハラ獣界の王じゃ。
 我の『大活躍譚!』は別途本編を読んでいただくとして、ここでは誓約者たちの紹介をするぞ。
 一番目の誓約者の名は、ラウラ・ファウベル。
 花も恥じらう十六歳、美しく可愛らしい容色の、勇敢でがんばり屋の乙女じゃ。
 手先が器用で、我が被る超絶キュートなこの冠も、ラウラがつくってくれたのじゃ。
 ラウラはしょっちゅう我のことを「可愛い~!」とぎゅっとする。
 大好き、と笑顔を向けられると、心の奥の方が、ふにゅんと蕩けてしまいそうなほど嬉しい。
 我にとってラウラ・ファウベルは、何にも代えがたい、大事な誓約者であり家族なのじゃ。

 我に家族はもうひとりおる。
 ヒューバート・ガーディナー。
 二番目の誓約者じゃ。
 なんでも国を救った英雄らしい。
 喜怒哀楽がはっきりしているラウラと違い、二番目は何を考えているのか、どうもわかりづらい。
 言葉も少ないし、いざ何かをしゃべったかと思えば、ラウラを怒らせるような発言が多くて、まこと困った奴なのじゃ。
 じゃが英雄将軍と謳われるだけあって、何人もの暴漢を、あっという間に倒した剣の腕は大したもの。
 初めて二番目の剣技を見た時、我はわくわくしたものじゃ。
 やはり男子たるもの、強くなければな!
 我はこのふたりの誓約者が大好きじゃ。

「――ください!」
 人界にやってきて本当によかったのう、と幸福を噛みしめていた我の耳に、一番目の声が飛び込んできた。
 言葉の端っこがとんがったその声には、ラウラの怒気が滲んでいる。
「なんじゃ、どうしたのじゃ?」
 慌てて飛んでいくと、ラウラは小さく唇を尖らせつつ、我をぎゅっと抱きしめた。
「ラウラ?」
「なんでもないの。キルラ、何かつくってあげる。王冠のほかに欲しいものある?」
 ラウラはにっこり笑うと、我を腕に抱いたまま、室内に据えられた椅子に腰かけた。
 ちらりと二番目に目をやるが、相変わらずの無表情だ。我はふー、とため息をついた。
 どうせまた二番目が一番目の気に障ることを、したか言ったかどちらかじゃろう。
 たまにこうやって口喧嘩――というか、ラウラが怒っているのにヒューバートは無言を貫くから、口喧嘩とはちょっと違うのじゃろうが――をするのじゃ。
 ふたりとも我にとって大事な誓約者だし、もっと仲良くしてもらいたいのだが、なかなか難しい。
 ラウラはほんの十ガラン程しか離れていないヒューバートを無視することに決めたようだ。
 一瞬見せた笑顔を消し、ほんのり色づいた頬をわずかに膨らませながら、レース編みをはじめた。


 昼を過ぎ、午後の菓子を食べる頃になっても、ふたりの間に会話はない。
「のうラウラ」
 シンと冷え切った室内の空気をどうにかしたくて、我はそっとラウラを呼んだ。
「ん、何?」
「あのなあ、この国の男子は、レースを身につけんのか?」
「男の人? うーん、そうね、職種によってはいると思うわよ」
「どんな職種じゃ?」
「役者さんとか、踊りを生業にしている人とか、吟遊詩人さんとか、いわゆる芸能関係者は、男女を問わず華やかな衣装を身につけているわ。……あとは、貴族の方々とか、王様のおそばに控える近習の方々とか?」
「貴族もか? では二番目が身につけてもおかしくないのじゃな」
 ならば二番目に何かつくってやるというのはどうじゃ――と、我ながらナイスじゃあ! と思える話の流れのはずだったのに、『二番目』と聞いただけで、ラウラのこめかみが、微かに波打った。
「貴族の方でも、つける方とそうでない方がいらっしゃるから」
 そう言うと、ラウラはふっつり口をつぐんでしまう。
「そ、そうなのか? なあ二番目も欲しいのではないか? 我だったら欲しいぞ!」
「必要ない」
 二番目に話を振った我が悪かったのか、あまりにもそっけないその返事を聞いて、一番目はさらにむっと唇を引き結んでしまう。
 ――うう、撃沈じゃあ。
 それからも心を砕いて言葉をかけ続けたのじゃが、一向に仲直りをする気配もない。
 手先が器用なラウラなど、ふわふわのレースショールの仕上げに入っておるし、ヒューバートはといえば、仕事だかなんだか知らぬが、机上にある紙にずっと視線を落とした状態で、咳払いひとつせず、身動ぎすらしない。
 むう。
 このままではダメじゃ。
 なんとかふたりを仲直りさせねば……!
 いてもたってもいられず、我はラウラの隣から、そぉっと身を浮かせた。
 そうしても、ラウラは一心にレース編みをしているから、まったく気づかない。
 そのまま移動し、両手を扉の取っ手に添えると、身体ごとくるんと回る。
 そうして少し開いた扉の隙間から、素早く廊下に飛びだした。

「はあああ」
 まるで氷の棺のような部屋じゃった。
 身体ではなく心が凍えそうじゃ。
「どうしたらよいのじゃろうなあ」
 うむむ、と首を捻りながら、あてもなく廊下を進む。
 場所を移せば何か閃くかと期待したのじゃが、妙案などそうは思い浮かばない。
 と。
 階段を上ってくる足音がひとつ、いやほとんどしないが、もうひとつ。
 この足音たちは。
 こちらにやってくる人物が誰なのか気づいた瞬間に、我は一気に飛んだ。
「そっき―――んっ!」
「うぶっ!」
 勢い余って相手の顔に思いきり突っ込んでしまった。
「痛いぞ側近っ!」
「痛いのはこっちだ! しかも、おま、顔どころか口くっつけんなっつの!」
 足音の主は、ヒューバートの側近と、誓約のヴァハラじゃった。
 なんというタイムリーな訪問じゃー。
「なんじゃ、口が頬にくっついたくらい、いいではないか。それより側近、おまえに訊きたいことがあるのじゃ。知恵を貸せい!」
 我よりヒューバートとの付き合いの長い奴らじゃ。きっといい案が出てくるに違いない。
「ヴァハラは知らないかもしれないけどなあ、人間にとって唇をくっつけるのは、親愛の情とか恋愛感情があるとか、とにかく相手が好き好き大好きって時にする行為なの。キルたん、僕のこと好きなわけ?」
「側近は前にラウラをいじめたし我を解剖するとゆうたから好き好き大好きではない」
「だろ」
「じゃがそのあとでヒューバートとラウラを助けてくれたことがあるから、そう嫌いでもない」
 そう言うと、側近はちょっと驚いたように目を瞠り、足元に座る側近のヴァハラは、ふふ、と小さく笑った。
「何を笑っておるのじゃ?」
 側近のヴァハラの近くへと移動する。
「なんでもありませんよ、小さきヴァハラ。それで、知恵を貸せとは、どうかしたのですか?」
「おお、そうじゃ。側近に訊きたいことがある――あったのじゃが、うむ?」
『口をくっつけるのは、好き好き大好きって人にする行為なんだよ』
 先刻の側近の言葉を思い出す。
「口をつければ誰でも好き好き大好きなのか?」
「まあ、嫌いな者にはしないでしょうね」
「――そうか」
「なんだよキルたん、誰かにちゅーしたいのか?」
「ちゅーとはなんじゃ?」
 口をくっつけること、接吻、キスのことだよとの説明に、なるほどとうなずく。
 ひとつ賢くなったぞ。
「で、どうしたわけさ?」
「うむ。作戦名は『好き好き大好きちゅーして仲直り作戦』じゃ! 側近と側近のヴァハラよ、礼を申すぞ」
 まこと良きことを聞いた。
 待っているがよいぞ、一番目と二番目!
 むふふと笑いながら、我はラウラとヒューバートがいる部屋へと戻る。
 いざ、作戦決行じゃー。



                   



「なんだろうねえ、あれ」
「誰かと誰かを仲直りさせたいのでしょう?」
 目を細めるイムに、シドもまた唇の端を微かに上げて笑う。
「ヒューは周囲がどう思おうとてんで無頓着だし、小娘は小娘で、意外と強情だしな」
「間に挟まれた小さきヴァハラは苦労性ですね」
「ま、珍獣キルたんのお手並みを拝見しようかね」
 シドとイムは笑いながら、小さな自称ヴァハラが入っていった部屋へと歩を進めた。

 

                                       了






------------------------------------  ----------------------------------


お読みいただき、ありがとうございました。
 
『キスでつなぐ誓約者!?』(特典SSカード)の直前話です。
特典SSカード、書く前はキルラ視点というのも面白いかなあと思っていたんです。
でも誓約者の紹介だけで文字数使いきってしまったため(笑)、SSカードの方は本編同様、ラウラ視点になりました。
一度くらいはキルラ視点を書いてみたかったので、こちらにアップしました。うん、楽しかった!
お読みくださった方も、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
(誤字等いくつか見つかったので、後日修正しましたー)

                           香月 沙耶 拝

 

スポンサーサイト
Comment
面白かったです!その後が気になりますね(^v^)
特典SSカードがついてくるって言う本屋で買ったんですけど本の中に入ってると思っていたんですけど言わないともらえないんですね(泣)

これからもう一度買っても特典SSカードは、ついてくるんですか?
Posted by: あき |at: 2011/05/02 9:40 PM








Calendar

1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< October 2017 >>

Entry

Comment

Archives

Category

Link

Search

Profile

Feed

Others

Sponsored Links

Mobile